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誤用されがちな統計用語

第2回 有意差とp値の使い方を間違っていませんか

2026.07.16

著者:

一般財団法人経済調査会 押野 智樹

 第2回は、統計の基本概念のうち、よく使われている「有意差」「p値」「標準偏差」「無作為抽出」という、特に誤用が多い4つの用語を扱います。

■ 「有意差=意味がある」とするのは誤解
 統計解析で「有意差あり」と判定されると、「意味のある差が出た」と解釈されがちです。しかし、有意差とはあくまで「偶然では説明しにくい差が観測された」という統計的判断にすぎません。実務で重要なのは、その差が意思決定に影響するほど大きいかどうかです。

   例:「A施策の方がB施策より売上が有意に高かった。だからAが優れている。」

 これは典型的な誤解です。売上が1円しか違わなくても、サンプルサイズが極めて大きければ有意差が出ることがあります。
 つまり、

・統計的有意性(偶然ではなさそう)
・実務的意義(意思決定に影響するほど大きいか)

 はまったく別の概念です。効果量や信頼区間、サンプルの層構造などを踏まえ、総合的に判断することが不可欠です。

■ p値は「仮説が正しい確率」ではない
 「p=0.01 だから帰無仮説が1%の確率で正しい」という表現を見聞きすることがありますが、これはp値の解釈に関する典型的な誤りです。p値は「帰無仮説が正しいと仮定したとき、観測データ以上の極端な結果が出る確率」を表すものです。仮説の正しさそのものを示す指標ではありません。
 また、サンプルサイズが大きいほど、わずかな差でもp値は小さくなります。大規模データでは「有意差が出ること」自体は珍しくありません。p値だけで効果の大きさを判断するのではなく、実務的な影響や効果量を併せて評価することが重要です。

※帰無仮説:統計的検定において帰無仮説とは、「この事象には何も起きていない」と仮定する出発点の考え方です。例えば、「AによってBに影響は起こらない」と仮定することです。本当にそうだと思っているわけではなく、検定の公平性を保つためのルールと考えるとよいです。データが帰無仮説を否定できるかどうかを調べるのが統計的検定です。
※p値:帰無仮説(差がない・効果がない)が本当に正しいと仮定したときに、「今回観測された結果と同じかそれ以上に極端な結果が偶然に起こる確率」を表す指標で、値が小さいほど「その結果は偶然では説明しにくい」と判断し、一般に0.05未満なら「統計的に有意」とみなされます。


■ 標準偏差は「安心・安全」を示す指標ではない
 標準偏差はデータのばらつきを示す基本的な尺度ですが、これも誤解されやすい用語です。「標準偏差が小さいから安心」「平均との差が大きいから外れ値」という判断は、必ずしも正しくありません。
 標準偏差は、データが正規分布に近いことを前提に使われることが多い指標です。分布が歪んでいる場合、「±1σに何%が入る」といった一般的な説明は成り立ちません。外れ値の判断にはヒストグラムや箱ひげ図、IQR(四分位範囲)、基本統計量など、分布形状に依存しない指標を併用することが実務では有効です。
 正規分布でなければ『±1σに何%』は成り立たちません。標準偏差は便利ですが、使いどころを誤ると誤解を招きます。

■ 無作為抽出は「手当たり次第」ではない
 アンケート調査やマーケティングの現場で、「ランダムに集めたので無作為抽出です」と説明されることがあります。しかし、無作為抽出とは「母集団の各要素が等確率で選ばれるように設計された抽出方法」です。偶然や恣意性とは無関係であり、単に「駅前で通りかかった人に聞いた」ことは無作為ではありません。
 特にWebアンケートは、自己選択バイアスが避けられないため、無作為抽出とは言えません。回答者の属性が偏る可能性を常に考慮し、結果の解釈に慎重さが求められます。

■ まとめ
・有意差は「偶然では説明しにくい」という統計的判断であり、実務的な重要性とは別物である
・p値は仮説の正しさを示す指標ではなく、サンプルサイズに強く影響されるため、単独で判断してはならない
・標準偏差は正規分布を前提とすることが基本で、ばらつきや外れ値の判断には他の統計量との併用が不可欠である
・無作為抽出は「等確率で選ばれる設計」が前提であり、Webアンケートなどは自己選択バイアスにより無作為とは言えない

 次回も、現場で混乱を招きやすい統計用語を取り上げ、誤解を防ぐためのポイントを整理していきます。

※このコラムは全3回を予定しています。

コラムの著者
一般財団法人経済調査会
押野 智樹(おしの ともき)

1986年、経済調査会入会。2001年から情報サービス関連の調査業務に従事。同時にソフトウェア開発プロジェクトデータを毎年収集し分析を実施。「ソフトウェア開発データリポジトリの分析」では編集の中心的役割を担う。配属以来、一貫してコストを中心としたソフトウェアメトリクスに関する研究に取り組む。専門統計調査士。

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