コラムColumn

ソフトウェア開発費の見積り、プロジェクトマネジメント、
発注者と受注者の間の合意形成等に参考となる情報を不定期に掲載していきます。

ソフトウェア・メインテナンス研究会の活動について

2025.06.05

著者:

ソフトウェア・メインテナンス研究会 代表 伊藤 順一

<はじめに>
 ソフトウェア・メインテナンス研究会(略称:SERC)は、ソフトウェア技術者協会の分科会の一つで、ソフトウェア保守者の技術的な水準を向上し、社会的認知度の向上に貢献することをミッションとして活動しています。
 ITシステムを支えるソフトウェアが社会的インフラと認識されるようになった昨今、ITシステムのプロセスの一つであるソフトウェア保守の重要性が増しています。度々ITシステム障害が発生していますが、ハードウェア障害だけではなく、ソフトウェア保守に起因するものも散見されます。
 私が長年携わっている金融業界の保守現場でも諸々の問題が発生しており、その問題を解決すべく日々奮闘しています。

<組織の設立経緯と概要>
 1990年12月に設立されたこの研究会は、日本で唯一のソフトウェア保守について専門的に研究する非営利団体であり、会員間での問題解決を図る場として活動を開始しました。情報処理推進機構のガイドライン「共通フレーム」への関心や西暦2000年問題が影響を与え、会員数は100名を超える規模にまで成長しました。
 主な活動としては、幾つかのグループでテーマを決め、毎月会合を開催し、研究結果を年次報告書としてまとめ、会員に配布してきました。毎年1回シンポジウムを開催し、研究結果を発表すると共に、IT業界内外から有識者を招聘し講演を頂き、参加者で意見交換を行なってきました。
 主な成果物としては、研究会の有志により2007年10月に書籍「~ISO14764による~ソフトウェア保守開発」をソフト・リサーチ・センターから出版しました。また、2008年8月に日本規格協会から発行された規格「ソフトウェア技術-ソフトウェアライフサイクルプロセス-保守(JIS X 0161:2008 (ISO/IEC 14764:2006)」には、JIS原案作成のため、ソフトウェア保守プロセス委員会の一員として、研究会の有志が参加しました。その後、会員数の減少により、独立した団体としての運営を断念し、2023年10月からソフトウェア技術者協会の分科会として活動を継続しています。

<現在の活動状況>
・技術的負債解消に向けた取り組み
 経済産業省の「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」(2018年9月7日)には「技術的負債」という言葉が使われています。DXレポートでは、「システムの維持管理費が高額化し、IT予算の9割以上に(技術的負債)」との記述があります。既存のレガシーシステムを使い続けることが、DXを推進したい企業の足かせとなる、という意味で使われています。研究会では、2020年から技術的負債の見える化と課題の解消に向けた研究を開始しました。「技術的負債」を可視化し、その理解を深めるため毎年開催されるソフトウェア技術者協会のソフトウェア・シンポジウムにてワーキングを開催しており、参加者間での情報共有を図っています。さらに、経済調査会と共同で実施する「システム維持管理に関する調査」により技術的負債に関するデータ収集と分析も行っています。
※ DXレポートにおける定義:短期的な観点でシステムを開発し、結果として、長期的に保守費や運用費が高騰している状態
・書籍「~ISO14764による~ソフトウェア保守開発」の改訂に向けた取り組み
 ISO/IEC/IEEE 14764(保守プロセス)が2022年1月に改訂されました。また、上位規格であるISO/IEC/IEEE 12207(ソフトウェアライフサイクルプロセス)も大きく変わっていることから、変更点の分析から着手し、現在はISO/IEC/IEEE 14764を研究会で独自に解釈すると共に、新しい規格や情報技術を取り込んだ内容にするため、書籍改訂の準備を進めています。
・定例会合
 前述した活動のため、原則毎週土曜日の午前中に1時間から2時間程度、オンラインによるミーティングを開催しています。研究員同士で活発な議論を交わし、知識や技術の向上を図る貴重な機会となっています。

<おわりに>
 メインフレーム中心の時代、サーバーやパソコンが普及した時代、更にスマートフォンが普及した時代と、ハードウェア技術の著しい進化に伴い、ソフトウェアも進化を続けています。そしてIoTや生成AIの登場で、ソフトウェアは人間だけが創造するものではなくなりつつあります。そのような環境の変化により、ソフトウェアは肥大化、複雑化、ブラックボックス化が進んでいます。ITシステムを安定したより良い品質を保つためには、ソフトウェアを保守開発する環境を改善するだけではなく、組織やプロセスも改善を続ける必要があると考えています。保守現場の課題はまだまだ多いのですが、課題と付き合い解決する喜びもあるのです。
 是非皆さんも参加して、ソフトウェアのライフサイクルを楽しみませんか。研究会の活動に参加したい方は、以下の公式サイトから入会案内を確認できます。

コラムの著者
ソフトウェア・メインテナンス研究会 代表
伊藤 順一(いとう じゅんいち)

1981年、電力系とハードメーカーが出資する情報システム子会社に入社。以来、様々な業種のソフトウェア保守開発に従事している。2005年からは、金融系システムの基盤周りのソフトウェア保守開発に携わり、システム移行などの経験を積んでいる。SERCには2000年に入会し、グループ活動を通じてプロセス標準化の重要性を学び、2020年からは、フォーラムやワークショップのリーダーとして活動に参加している。2024年からSERC代表幹事。

TOP