ソフトウェア開発費の見積り、プロジェクトマネジメント、
発注者と受注者の間の合意形成等に参考となる情報を不定期に掲載していきます。
ファンクションポイント上級資格 CFPS Fellow への道
第2回 FP の魅力と CFPS 試験初回
2025.07.31
著者:
株式会社SOFTEST 代表 倉重 誠
ファンクションポイント (FP: Function Point) の適用検証活動では、既に開発したソフトウェアの FP を計測する作業が主でした。その作業の内容は、仕様書や実際に動作するソフトウェアを参照し、FP の計測ルールに照らし合わせて機能を識別するというものです。FP を計測すると、ソフトウェアの大きさを示す数値を算出することに加え、算出のベースとなる「機能一覧表」を作成することになります。
「機能一覧表」によってソフトウェアの全貌がよく理解できることから、この「機能一覧表」が FP の肝なのだということが徐々に分かってきました。と当時に、クライアント/サーバー(C/S)システムには「機能一覧表」という設計書が無い、ということも分かりました。機能を識別するには、画面仕様書の中の「イベント一覧」や画面遷移図を見ながら、あるいは実際のソフトウェアを操作しながら、ソフトウェアの挙動をたどって「ここからここまでが1つの機能だ」と逐一、確認していく必要があったのです。
C/Sシステム出現前の、メインフレームやオフコンの時代には「機能設計」という工程があり「機能一覧」や「機能仕様書」といった設計書も作成されていました。しかし、C/Sシステムは GUI で画面を設計し、画面で発生するイベントに対してソースコードを割り当てていく、いわゆるイベントドリブン型の開発スタイルであり、画面設計が従来よりはるかに簡単になったことによって、機能設計という工程が省略され、開発者の頭の中にある機能を画面設計の中で実装していました。
ですから、開発の当事者はソフトウェアの機能の詳細を理解しているのですが、筆者は第三者の立場で見ていたので、どんな機能が備わっているかを理解することが極めて難しく、FP 計測を通じて機能を把握しなければなりませんでした。多くのソフトウェアを計測していくうちに、FP はソフトウェアの大きさを測るだけの道具ではなく「ソフトウェアの機能構造」を把握できるメカニズムなのだ、ということに気づきました。それがソフトウェアの根幹や本質に迫っているように感じられて、筆者はどんどん FP に魅了されていきました。
FP 計測の経験を積んでいくと、計測ルールには曖昧な点があることも見えてきました。筆者は、入会した日本ファンクションポイントユーザ会(JFPUG、現 MCIS:ITシステム可視化協議会)に FP 計測ルールの疑問点を提示し、FP 適用を実践していた会員の皆さんと意見交換をさせていただきました。計測上の疑問点が解消されたことに加えて、FP 適用推進上の様々な課題を解決するヒントを得ることができました。
その様子を見ていた当時の JFPUG 会長、西山茂氏(筆者に FP を紹介してくださった方。第1回コラム参照)から「計測技術委員会」を立ち上げてはどうかという提案があり、委員会を発足し、委員長を務めさせていただきました。筆者はまだ20代でしたが、社外活動においてはキャリアではなくスキルが大切だということを、このとき実感しました。現在、MCIS で活動している「FP委員会」は、この計測技術委員会の流れを汲んだものでもあります。
このように、所属会社(日立製作所)では FP 適用の実践経験を積み、社外では FP 適用の第一人者だと認識されるようになっていきました。そんなある日、上司からこんな提案を受けます。「IFPUG カンファレンスに行って FP の最新動向を調査してくると共に、CFPS を取得してはどうか?」
FP の普及推進団体である IFPUG (International Function Point Users Group) は、当時は年に2度、カンファレンスを開催して FP に関する講演や情報交換を行っていました。また、カンファレンスの会場で、FP を適切に計測できることを認定する国際資格 CFPS (Certified Function Point Specialist) の試験を実施していました。当時、日本国内には CFPS を取得した人がいなかったこともあり、CFPS は FP の第一人者であることを客観的に証明することにもなると思い、資格取得に挑戦することにしました。
1996年の秋、米国・ダラスで開催されたカンファレンスに参加し、CFPS 試験を受験しました。試験の言語はもちろん英語です。3時間で150問が出題され、合格ラインが90%正解という、過酷なペーパーテストです。時差ボケが抜けていない渡米3日目、人生で最も集中した3時間がスタートしました。
試験問題は、IFPUG 発行の FP 計測マニュアルの記述内容を問う問題、提示された仕様に対してどのように FP を計測するかを問う問題、ソフトウェアの全体仕様から機能を識別する問題などがあり、大半は選択式で問題はさほど難しくありません。ですが、3時間で150問となると1問あたり1分程度で解いていく必要があり、マニュアルを参照可能ではあるものの、マニュアルを逐一見ていると時間が足りません。マニュアルの基本部分はきちんと覚えておき、細かい点だけマニュアルを調べるという対応が必要でした。
FP 計測の活動を通じて、計測マニュアルは日本語翻訳版のみならず、英語版も穴が空くほど読み込んでいました。計測ルールの基本は全て頭に入っていましたし、マニュアルのどこにどんな内容が記載されているかも把握していました。ですから、試験中にマニュアルを確認するにしても、参照したいページに数秒でたどり着くことができ、解答を時間内に終えて、少し見直しをする時間も取ることができました。
何よりキツいのは、3時間もの間、大量の英語を読み続けなければならないということです。2時間経った頃からは集中力を保つのがかなり大変で、自分の限界との戦いになっていました。CFPS を取得したい、いや、取得しなければならない、そんな思いが集中力を最後まで維持する原動力になっていたように思います。
試験翌日、合格発表があり、無事に合格。この日、後々取得する CFPS Fellow への第一歩が刻まれました。
日立製作所で、ITシステム/ソフトウェア開発の開発支援・プロジェクトマネジメント支援の技術開発や定着化に従事。専門分野は、見積、開発データ測定・活用、ファンクションポイント(FP)。2018年、株式会社SOFTESTを設立し、専門分野の経験を生かしたITコンサルティングを推進中。30年間、社外活動でFP普及に尽力。日本ファンクションポイントユーザ会(JFPUG)で技術担当役員、事務局長などを歴任。JFPUGから改称したITシステム可視化協議会(MCIS)ではFP委員会の委員長に着任。
株式会社SOFTEST:https://www.softest.co.jp/