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生成AIが拓くデジタル経営

第7回 顧客対応自動化の実現

2026.01.22

著者:

株式会社VIVINKO 代表取締役 井上 研一

 前回はデータ基盤の重要性について解説しました。整備されたデータ基盤があれば、AIは「社内の知恵袋」として力を発揮します。今回は、その知恵を「顧客向けの窓口」として展開する、顧客対応チャットボットの実践的な構築方法を見ていきます。

■3つのアプローチとその使い分け
 顧客対応チャットボットには、大きく分けて3つのアプローチがあります。それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることが成功の鍵です。


○シナリオベース型
 従来からある方法で、あらかじめ定義された質問と回答のパターンに沿って対応します。注文確認、予約受付、配送状況確認など、決まった流れがある業務に適しています。
 最大のメリットは確実性です。ユーザーの意図の理解を誤らなければ設計どおりの応答が保証され、顧客に誤った情報を伝えるリスクを最小化できます。そもそもAIが回答を生成しているわけではないので、ハルシネーション(AIが事実と異なる情報を生成してしまう現象)の心配もありません。
 一方で、想定外の質問には対応できません。また、質問パターンが増えるほどシナリオが複雑になり、メンテナンスコストが増大します。
○生成AI型
 GPTやGeminiなどの生成AIを使い、自由な質問に柔軟に対応するアプローチです。FAQドキュメントや社内情報を参照しながら、その場で回答を生成します。
メリットは圧倒的な柔軟性です。ロングテール(頻度は低いが多様な質問)への対応が可能で、シナリオを細かく定義する必要がありません。FAQなどを更新すれば自動的に新しい情報を参照できるため、導入とメンテナンスが容易です。
 ただし、精度管理が課題です。AIが誤った回答をする可能性があり、特に重要な情報(料金、契約条件、法的事項など)を扱う場合は注意が必要です。
○ハイブリッド型
 理論的に最も優れているのが、シナリオベースと生成AIを組み合わせるハイブリッド型です。頻出する定型的な問い合わせは、シナリオで確実に処理し、個別性の高い質問は生成AIに任せる、という使い分けを自動的に行います。
 ただし、このようなハイブリッド型に対応した製品は必ずしも多くありません。多くのチャットボット製品は、「基本はシナリオ型だが、オプションでAI回答機能も付いた」という段階にあります。大手企業では個別カスタマイズによってハイブリッド運用を実現している例もありますが、中小企業が手軽に導入できるパッケージ製品を活用してハイブリッド型を導入していくのは、これから徐々にというところです。
 どのアプローチを選んでも、AIで対応しきれない場合のエスカレーション設計です。適切なタイミングで担当者に引き継ぐ仕組みを用意しましょう。

■製品選定とデータソースの現実
 顧客対応用チャットボットを構築する場合、チャットボット専用製品を使うのが一般的です。
 主な選択肢は大きく2つあります。第一に、従来型のシナリオベース製品が生成AI対応を追加したもので、ChatPlusやDialogflow CXなどのチャットボット専用製品、HubSpotやZendeskなどが提供するチャットボット機能が代表例です。既存のワークフローやCRMとの統合がしやすく、段階的に生成AI機能を追加できます。
 第二に、最初から生成AI技術を中核に据えた製品で、AIさくらさんやHelpfeel Agent Mode、AIアプリ開発プラットフォームのDifyなどがこれに該当します。柔軟な対話が得意で、ナレッジベース機能も充実しています。
 AIが回答を生成するには社内データとの連携が不可欠ですが、いずれも基本的には「製品内のFAQやナレッジ」を参照する設計になっています。社内に散在する情報を各製品のナレッジベースに集約し、そこからAIが回答を生成します。

■データ基盤との連携は発展途上
 理想を言えば、Google WorkspaceやMicrosoft 365に蓄積された情報を、チャットボットが直接参照できれば便利です。しかし、直接連携できるチャットボット製品は少ないのが現実です。そもそも顧客向けのチャットボットであれば、社内の情報をどこまで開示して良いかという権限設定の問題もあります。
 当面は、各チャットボット製品が提供するナレッジベースに、必要な情報を集約して管理することになります。製品によってはPDFやWebページのURLを読み込ませるだけでナレッジ化できる機能があり、小規模なFAQであれば充分対応できます。
 精度を追求する場合も、各製品の機能を使いこなすことが近道です。製品ごとに独自のAIチューニング機能や回答精度向上の仕組みが用意されており、それらを活用することで高品質な応答を実現できます。
 将来的には、データ基盤との統合が進むと期待されますが、現段階では「まずは製品の機能で実現できる範囲で始める」のが現実的です。

■成功の鍵はログ活用

 
 チャットボットにおけるログ活用は極めて重要です。基本的には生成AIは会話から「学習」しません。何度やり取りしても、自動的に次の会話で賢くなるわけではないのです。ログの分析と継続的な改善を行い、会話を賢くする取り組みが必要です。
 ログからは様々なことが見えてきます。良くある質問パターンが明確になり、週に10回以上聞かれる質問はシナリオ化の候補になります。誤回答や不適切な応答を検出し、ナレッジベースの改善につなげます。想定外の質問を発見し、FAQ拡充の判断材料とすることもできます。
 多くのチャットボット製品には問い合わせ内容の分析機能やダッシュボードが用意されています。これらを活用し、データに基づいた継続的改善を行うことが、チャットボットの品質を高める最も確実な方法です。

 次回は、業務システムへの本格的なAIの組み込みとエージェント化について解説します。AIが単に「答える」だけでなく、「業務を動かす」存在になる道筋を見ていきましょう。

※このコラムは全8回を予定しています。

コラムの著者
株式会社VIVINKO 代表取締役
井上 研一(いのうえ けんいち)

ITコーディネータとして、2016年からAIを業務に組み込む活動を続けている。生成AI利活用クラウドサービス「Gen2Go」を開発・提供するほか、北九州市ロボット・DX推進センターで中小企業のDX支援に携わる。一般社団法人IT経営コンサルティング九州(ITC九州)の理事や、特定非営利活動法人ITコーディネータ協会生成AI研究会のリーダーも務める。

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