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「賃金センサス」における過去10年間の賃金動向

2025.06.19

著者:

一般財団法人経済調査会 大岩 佐和子

<賃金センサスとは>
 政府が行っている基幹統計の一つに「賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)があります。この調査は、日本の賃金構造の実態を詳細に把握することを目的として、1948年(昭和23年)から毎年実施されており、国内の主要産業に従事している労働者について、年齢、性別、雇用形態、就業形態などの属性を踏まえた上で、それぞれに支払われている賃金を調査しています。毎年7月に調査が行われており、調査対象は、6月分の月例賃金と、前年(1月~12月)に支払われた賞与、期末手当等特別給与額です。
 「賃金構造基本統計調査」の調査結果にもとづき、産業分類、職種、所属企業の規模(従業員数)等の区分別に平均賃金をまとめた資料が「賃金センサス」です。「賃金センサス」は毎年8月頃に株式会社労働法令から出版されており、政府刊行物を取り扱っている書店で入手できます。

<過去10年間の賃金動向>
 少子高齢化の進行による生産年齢人口の減少から、情報サービス分野においても人材不足が続いています。2024年6月に独立行政法人情報処理推進機構が公開した「DX動向2024」の中でも、DX を推進する人材の「量」の確保状況に関する調査結果について、「2022 年度調査、2021 年度調査と比較して、『大幅に不足している』の増加が著しく、人材不足は深刻化している。」という考察があります。
 人材不足の影響が賃金にどのように影響しているかを確認するため、2015年から10年間の情報サービス分野に関連する職種(システムエンジニア、プログラマー)の賃金動向を、「賃金センサス」のデータにもとづき以下の手順で確認してみました。

 ①「職種」から「表1 職種(小分類)、性別きまって支給する現金給与額、所定内給与額
  及び年間賞与その他特別給与額(産業計)」を使用。なお、「賃金構造基本統計調査」
  では、2020年度の調査から職種の定義が変更されているため、「システム・エンジニア」
  については「システムコンサルタント・設計者」を、「プログラマー」については
  「ソフトウェア作成者」を後継職種とする。

 ② 区分「企業規模計(10人以上)」において、上記の2職種の「男女計」の項目の数値を
  抽出し、以下の計算式で平均賃金(時給)を算出する。

  平均賃金(円/時間) = (A)月例賃金(円/時間) + (B)年間賞与等(円/時間)
   
 (A)「きまって支給する現金給与額」のうち「所定内給与」の調査結果(平均値)を
   「所定内実労働時間数」の調査結果(平均値)で除す。
 (B)年間賞与・その他特別給与額の調査結果(平均値)を「所定内実労働時間数」の
    調査結果(平均値)×12ヵ月で除す。

 ③ 2015年の平均賃金を100%とした各年の変動率を求める。

 基準となる2015年の平均賃金は、システム・エンジニアが 2,849.9円/時間、プログラマーが1,914.9円/時間であり、最新の調査結果(2024年)の平均賃金は、システム・エンジニアが 3,659.1円/時間、プログラマーが2,898.3円/時間でした。上述のとおり、「賃金構造基本統計調査」では、2020年の調査から職種の定義が変更されているため、2015年を基準とした2024年の変動率については判断に留意が必要ですが、プログラマーの平均賃金は毎年上昇し続けています。
 なお、職種の定義が変更されたことによる影響を考慮して、2020年から2024年までの変動を確認すると、システム・エンジニアが13.7%、プログラマーが25.3%上昇していました。

<今後の動き>
 連合(日本労働組合総連合会)が発表している「2025年春闘の回答結果のまとめ」によると、6月2日時点の集計結果の概要として「平均賃金方式で回答を引き出した 4,863 組合の加重平均(規模計)は 16,399 円・5.26%(昨年同時期比 1,163 円増・0.18 ポイント増)となった。300 人未満の中小組合(3,412組合)は、12,453 円・4.70%(同 1,092 円増・0.25 ポイント増)であった。いずれも昨年同時期を上回っている。」とあります。
 2024年の「賃金構造基本統計調査」の調査結果の速報は2024年12月に、最終的な調査結果は2025年3月に公表されていますので、2025年の調査結果も同時期に公表されると思われます。賃金に関する統計については「賃金構造基本統計調査」以外にも、「毎月勤労統計調査」(厚生労働省)、「全国企業短期経済観測調査」(日本銀行)等がありますので、それらの調査結果等も注視していきたいと思います。

※グラフの画像は、WindowsPCの場合、ポインタを画像の上に置いた状態で「Ctrl」キーを2回押すと拡大できます。

コラムの著者
一般財団法人経済調査会
大岩 佐和子(おおいわ さわこ)

1991年より一般財団法人経済調査会に勤務。2010年より 経済調査研究所 調査研究部 第二調査研究室で情報サービス料金調査等の情報サービス分野の調査を担当している。また、経済調査会発行の統計資料「ソフトウェア開発データリポジトリの分析」の編集にも携わっており、ソフトウェア開発プロジェクトの生産性分析等を行っている。

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