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話題沸騰ポットとUSDM

第1回 USDMでの「話題沸騰ポット」の誕生

2025.08.28

著者:

NPO法人SESSAME 監事 鈴木 圭一

 「話題沸騰ポット GOMA-1015型 要求仕様書」(以下、「話題沸騰ポット」)は、NPO法人組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(以下、SESSAME)が作成した、組込みソフトウェア技術者向けの教育教材です。架空の電子ポットシステムへの要求を分析し、ソフトウェアで実現する要求を仕様化する際に、漏れや間違いに気付き易い記述にすることで、組込みソフトウェア開発の実践力が向上することを目的として作成されたものです。
 このコラムでは、「話題沸騰ポット」の作成に関わられたSESSAME監事の鈴木圭一氏にインタビューを行い、「話題沸騰ポット」の誕生の経緯と、USDM による要求仕様の明確化の試みについて語っていただいた内容をご紹介します。
※USDM(Universal Specification Describing Manner)とは、清水吉男氏が考案した、要求仕様を明確に記述するための手法です。目的語と動詞を意識して要求を明確に記述し、その要求が必要な理由や背景を付記することで、要求と仕様の関係性を明確にします。

■SESSAMEの活動に参加されたのはいつ頃ですか。
 SESSAMEは、2000年11月に、当時東京大学大学院工学系研究科の教授であった飯塚悦功氏が、組込みソフトウェアの管理者・技術者を育成するために、産官学の各分野から有志者を集め設立した団体です。
 その当時、情報技術が大きく進展する中で、日本がもっと力を発揮しなければならないと考えた組込みソフトウェア分野の技術者不足を危惧していました。
 中小企業の組込みソフトウェア開発会社では、低コストで技術者の実践力を養うことができる教育教材へのニーズが多いと考え、SESSAMEでは、発足以来、メンバーの有志がそれぞれの経験を元に共同で教材を作成し、自分達で安価な講習会を開催し、その教材を提供する活動を行ってきました。
 私は、2000年の12月に早稲田大学で開催された公開講座をきっかけにSESSAMEの活動を知り、2001年初頭に入会しました。SESSAMEの中でも比較的初期からのメンバーです。
 当時、私は富士フイルムでソフトウェア開発の標準化や新人研修企画を始めた頃でした。ちょうど日本でISO9000シリーズへの対応が流行りだした頃で、富士フイルムでも認証取得のためのシステム開発に関する様々な標準化活動が行われており、その一環としてソフトウェア開発プロセスの標準化を広めるための社内教育が必要と考えるようになっていました。そのような時にSESSAMEの存在を知り、活動に参加したわけです。

話題沸騰ポット」はどのようにして生まれたのですか。
 SESSAMEには多くのメンバーが参加しており、定例会やメーリングリストを通じて意見交換を行って教材を開発していました。要求仕様書の「話題沸騰ポット」もその一つで、ブラッシュアップしていた時にUSDMとめぐり逢いました。USDMを深く知るには自分でUSDMを使って要求仕様書を作ってみないといけないと考え、私が中心となって「話題沸騰ポット」の要求仕様書をUSDMで記述した版にしました。また、要求仕様書の表紙のWillくんとShallさんという二人の子供のイラストは、当時小学生だった私の娘に書いてもらったものです。
 着手した時の「話題沸騰ポット」の要求仕様書(第6版)は巷でよく見かける文章中心に記述された文書でした。この要求仕様書をUSDMで書きはじめたのは時間が取れた2005年の3月後半からでした。運良くUSDMの考案者である清水吉男氏にレビューを受けることができることになったので、ゴールデンウイーク中に初稿を仕上げ、清水さんにメールで送ってレビューしてもらいました。何度も何度も書き直しを指導されたことから、夏季休暇にもう一度白紙から作り直しました。
 着手してからは何箇所も仕様やそもそもの要求の不明な点が見つかり、SESSAMEメンバーに議論してもらって要求や仕様を明確にし、レビューを重ねることでUSDM形式の要求仕様書にし、第7版として公開しました。
その頃の清水さんはUSDMに関する書籍を出版され、お忙しかったとは思いますが、「話題沸騰ポット」のレビューはボランティアで行っていただけました。公開にあたっても、レビュー者として名前を出さない形で良いとおっしゃっていただきました。
清水さんには公開までずっと指導とレビューをしていただき、USDMとしてのお墨付きをいただくまでのやり取りは、私の良い思い出となっています。

※このコラムは全2回を予定しています。

参考
コラムの著者
NPO法人SESSAME 監事
鈴木 圭一(すずき けいいち)

1982年4月富士写真フイルム株式会社(現:富士フイルム株式会社)入社。社内コンピューターシステム運用及び開発を担当した後、写真印刷機や遺伝子解析機等の製品のソフトウェア開発を担当。2000年よりソフトウェア技術支援部門でSPI(Software Process Improvement)活動に従事。2017年3月同社を退社し、現在はNPO法人SESSAMEの監事。

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